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塀の向こう

Posted by 松長良樹 on 05.2014 0 comments 0 trackback
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 南海(ミナミ)と言う中三の女の子はとても好奇心旺盛で、たとえば研究課題などには真剣に取り組むから、それなりに理科の成績などはかなり良い方だった。
 でもそれが仇となる時だってある。これから書く物語はミナミの探求心がどんな風に作用して、どんな風な結末を迎えたかと言う、単純だがとても妙な話である。
 黄金町というのがミナミの生まれ育った町なのだが、彼女は生まれてからこの町を一歩も出たことがない。なぜなら町の周囲を丈高い城壁の様な塀がぐるりと取り囲んでいて、出たくても出られないのだ。最近の漫画で塀の向こうに恐ろしい巨人がいるという設定のお話があったが、それに近いと言えば、かなり近い。ただその壁の向こうには巨人はいないらしいのが救いだろう。
 むろん誰だって、なんで町の周りに壁があって外に出られないのか疑問に思わないわけがないのだが、それを誰もが口に出さない。それは一種のタブーみたいにされてきた。町の人達は昔からそのことを口に出しても、考えてもいけないと言われてきた。そういうことをすれば町に不幸が訪れるという。
 ミナミは両親からそう言われ、そして両親は、祖父たちから、さらに遡れば先祖代々からという事らしい。なんでそれで済むかと言うと、生活に、食べることに困らないからだ。通常に考えるなら外界との交流なかったら、まず物資が運ばれないのだから、すぐに食料や他の大切な物は尽きてしまうはずだ。ところがこの町のパン屋さんは、いつも焼きたてのパンを売っているし、スーパーに行けば魚でも肉でも何でも買える。
 不思議だがそのからくりが誰にも解らない。そういうものだと誰もが思っている。小学生時代からミナミは、家に近くのパン屋さんによくメロンパンを買いに行った。その時には何の疑問も感じなかったけれど、中学生になってなってからは不思議で仕方がなく、あるとき
「パンの原料の小麦粉はいったいどこから持って来るの?」
 と店の人の良さそうなおばさんに訊いてみたけれど、ニヤニヤ笑っているだけで明確な答えはもらえなかった。
 こんな事もあった。学校で一時間だけ担任の西村先生の思いつきで、自由時間と言うのが設けられた。日々の様々な疑問を仲間や先生にぶつけて質問力を高めようと言う、楽しい時間だった。
 しかし後半は最悪の状況になった。なぜかと言うとミナミが何を血迷ったのか
「ねえ、先生わたしは町の周りにある、あの高い塀の事がとても気になります。いったい誰が何のために作ったのでしょう? どうか先生教えてください」とストレートに質問してしまったのだ。
 あの時の先生の顔は確かに引きつっていた。痛ましい程に。そしてクラスを見回せば誰もが唖然として、目を伏せ、まるで「この者をお許しください」みたいに沈黙していた。
 心が痛かった。ミナミは泣きそうになったが涙を我慢したまま帰宅すると、その一部始終を母に話した。母の加奈子はとても驚いて父も交えて、もう二度とそんな質問を世間でするんじゃないとお説教をされてしまった。
 だけど、だけどミナミはとても好奇心が旺盛で、今回の事では両親には誤ったのだけれど依然として心の中の炎は燃え盛っていた。なんとかして塀を乗り越えて外の世界をこの目で見てみたい。ミナミは心密かにその事を決意するのだった。
 ミナミの親友のマサオは、幼馴染で男気のある好人物だった。よく喧嘩をした仲だが、とても気持ちが通じあう部分があって、何でも相談できるたった一人の男子だった。そのマサオにミナミはどうしても塀の外の世界を見たいと言った。それを聞いたマサオは最初ずいぶん驚いて、ミナミの事をまるで狂人か病人でも見るような眼で見たが、ミナミが本気で、心底本気でそう言っている事が解ったので
「実は俺も外が見たい」
とぽつりと本音を漏らした。そうして二人は暫らくなにも語らないまま、じっと見つめ合った。
 二人が落ち会ったのは夜の公園で、ミナミは二階の自分の部屋から両親に感づかれないように、こっそり抜け出してきた。その時のマサオのスタイルと言ったらまるで自衛隊のような格好をしていて、兄にかりたスクーターに乗ってきていた。それに目つきもなんだかきつくなっていた。
「いいかいミナミ、ここに気球を持ってきた。まあ気球と言うより風船と言った方がいいかも知れないが、この風船を塀の上まで飛ばすんだ。風船には先端にかぎ爪の付けたロープをくくりつけてあるから、下から見ていて、塀の上までいったと思ったら、二人でロープを思い切り引っ張るんだ。そうすれば塀の頂上にロープは固定される仕掛けさ。いいね」
 ミナミはその時にはもう心臓がドキドキして、怖いような嬉しいような、胸の高鳴りを抑えきれなかった。そして二人は何度も失敗した挙句、ロープを塀の上に固定するのに成功した。
 
 あらかじめマサオがロープに玉結びを何か所も作ってあったから、それを足掛かりにして二人は根気よく登って行った。そして悪戦苦闘の末マサオの手がついに塀の頂上にかかった。マサオは塀をまたぐように腰かけ、すぐにミナミを引っ張り上げた。

 ああ、そこに展開していた風景こそどうだろう!
 そこには町があった。どこかで見たことのある街並み。こんなことがあり得るのだろうか?ミナミのいた町。それどころではない塀は四角に町を囲んでいて、それが一つではない。碁盤の目みたいにいくつも数えきれない町が存在している。永遠に連なる四角に仕切られた枡目、それの果てしない連なり。
 二人はもう真っ青だった。そしてミナミは震えていた。
 だが暫らくしてマサオは意志を固めたみたいにしてこう言うのだった。
「よし、ミナミ向こうの町に降りてみるぞ」
 
 *  *

 次の日の朝、ミナミは学校でクラスメイトにこう訊かれた。
「ねえ、なんか今日のミナミ変ねえ。なんつーか、人が変わったみたい」
 でもミナミはそうかしら? みたいな顔をしてこう言うのだった。
「そうなのよ。人が変わったのよ、となり町の人とね」
 だけれどクラスメイトの千佳にはなんのことやら、さっぱり判らないのだった。


                          end
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Category : SF小説


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