恐ろしい予感

Posted by 松長良樹 on 10.2014 2 comments 0 trackback
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 ミツオという少年は預言者でも、超能力者でもないけれど、時々不思議な予感が胸をよぎることがあった。ふと友人や恋人の事を考えていたら、電話があったとか、家に来たとかそう言う事がないだろうか。胸騒ぎというものを誰もが経験したことがあると思うが、ミツオの予感もそれに近いもので、ただもう少し具体的だった。
 もちろん予感にも良いものと悪いものとがある。例えば年の違う兄が中古車を磨き上げている時にミツオがその様子を見ながら、こう言ったことがある。
「ねえ、兄さん。このかっこいいスポーツカーだけど、今週は乗らないほうがいいと思うよ。なんとなくそう言う気がするんだ」
「何言ってんだ。ミツオ。どういう事? それ」
 兄はちょっと呆れた顔をしてそう言ったが、それ以上の事をミツオが何も話さないのでその言葉は無視されてしまった。それでどうなったかと言うと、その週末、カーブでスピードを出し過ぎた兄は自損事故をおこし、ハンバーガーショップでのバイト代を貯めて買った、せっかくのスポーツカーが廃車になってしまった。ただ幸いな事に兄は軽い軽傷だけで済んだが、それ以来、兄はミツオの言葉を注意深く聞くようになった。
「なあ、もしかしてミツオ、俺が事故るの知ってたのか? そうだったらなぜもっとはっきり言ってくれなかった」
 後で兄は思い出したようにミツオにそう言ったが、それはまったく後の祭りでミツオも「あの時は何となくそんな気がしただけで、事故の事なんてわからないよ」
 と、そう言うしかなかったが実はミツオの心の中の映像には、兄のスポーツカーがカーブでスピンする恐ろしい場面が映し出されていたのだった。
 同じ頻度で悪い予感と良い予感がミツオの胸をよぎる。そして恐ろしい程その予感は的中する。ミツオはその能力が段々怖くなってきた。
 ――自分はもしかしたら恐ろしい人間なのかもしれない。そんな風に悲観的に考えるミツオ。
 知り合いの誰かが宝くじに当たるとか、また親戚の誰かが有名大学に合格するとか、そういった類の予感ならなにも怖くないし、喜ばしい事だったが、その反対に誰かが事故に遭うとか、罪を犯すとか、極端な場合死ぬとか、そういう知りたくもない事を予感するのはとても辛い事だった。
 それを吹っ切る為にミツオは別な何かに熱中しなければならなかった。スポーツでも得意なら野球でもやったのだろうが、あいにくミツオは運動が苦手だったので、好きな絵画に熱中した。中学生のミツオは絵がとても上手だったので、クラスメイトの似顔絵をかいたりして、それが学校で評判になったりした。
 そんなある日、ミツオは白い画用紙に丸いものを描いた。それがほとんど無意識で描いたものだったから自分でも何を描いたのかわからず、悩んでしまった。そして心の中の映像にはその丸いものが、まるで火の玉みたいに輝いて宙を飛ぶ姿が投影された。
 これはなにか不吉な予感に違いない。ミツオはそう思った。しかし今回はその丸いものの正体がわからず気持ちが悪くなった。忘れてしまおうとも思ったがそれはとても無理だった。そして考えあぐれている時にテレビで見たのが隕石落下の映像だった。それはもちろんSF映画だったが、地球の終焉であり、その映像はミツオの心の中の映像と見事に合致した。炎に包まれて地球に迫る小惑星。
 ミツオは絶望した。そしてその予感を恨みさえした。
「地球ももうおしまいってことか……」
 ミツオはニヒルに薄気味悪い笑いを浮かべた。そして青空を見上げた。学校も行ったり行かなかったりになった。すべてにやる気がおきない。ただその隕石らしいものが落ちるのがいつの事なのか、さっぱりわからなかった。もし千年後だったら何の問題もないじゃないか……。いや、しかしそんな訳はない。もし明日だったらどうしよう。そう考えると凄く怖い。それは心の葛藤だった。
 そんな風にして時は流れ、やがて中学の卒業式がやってきた。何事にもやる気がないミツオは力ない目で校舎を眺めていた。すると、さすがに色々な思い出がよみがえってきて目頭があつくなるのだった。
 だがその時、担任の先生が校庭にいるミツオの傍にやってきてこう言った。
「おい。ミツオ制服の胸のボタンが取れそうだぞ。卒業式なんだからちゃんとしときなさい!」
 そう言われてミツオがボタンに目をやると、そのボタンはまるで火の玉みたいに輝き、弧を描いて地面に落ちた。あわてて拾い上げたボタンをしげしげと眺めたミツオ。
 そしてミツオは、そのとたんに大声で笑い出した。
「これを僕は予感してたってわけか!!」
 しかしその笑いは長くは続かなかった。なぜなら空が急に暗くなって、ミツオが仰ぎ見た視線の先には異様に肥大した月が、信じられないほど間近に浮かんでいるのだった。

                        了
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盛り上げ方が素晴らしいですね。一度ほっとさせておいて、最後のショック。

背負い投げと思ったところで、見事なまでの内股すかしを食らった気分です。

面白かったです(^^)
2014.05.05 19:53 | URL | ポール・ブリッツ #0MyT0dLg [edit]
ポール・ブリッツさん。お読みいただきありがとうございます。

このお話は、さすがになーんだという最初のオチが見え見えなので、ひねりました。

功を得たみたいなので良かったです(*^。^*)
2014.05.06 18:20 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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