転がる生き物の話

Posted by 松長良樹 on 26.2014 2 comments 0 trackback
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 ある惑星に生命がいました。とても地球からは離れた星なので人間はその存在さえ知りません。ただその生き物はとても不可思議な生態を持っていました。なんと説明しましょうか、地球の生物に似た者を探すのなら、それはマグロにちょっと似たところがあります。
 姿かたちは似ても似つかないのですが、マグロは回遊魚で、寝る時でさえ泳いでいますが(泳ぎを止めたら窒息する)その惑星の生物は、常に転がっていないと死んでしまうのです。形は円盤型です。ちょうどタイヤみたいな形をして、タイヤみたいに転がるのです。色はゲレーで外側の皮膚が程よい硬さがあって、まさに大きな自転車のタイヤのようです。
 彼らはもちろん複数いて、三十個ぐらいの、いくつものグループをつくっています。そしてその集団同士は決して干渉しません。
 彼らにとって最も必要なのは傾斜地です。つまり坂がないと転がれないからです。もちろん自力で少しは転がれるのですが、すぐに疲れてしまいます。だから長い坂道が彼らは大好きです。長ければ長い程都合がよいのです。長い滑らかな斜面を、全速力で滑走するとき彼らは無類の喜びを感じるのです。それは彼らにとって、生まれてきて良かった! みたいな至福の瞬間なのです。とても理屈なんかで語れません。理由などないのです。
 彼らが子を産むときは回転しながら出産します。とても難しい芸当なのですが、生まれてきたばかりの小さな子は、すぐに転がり始めますから凄いです。ただ転がる速度が遅いので直ぐに親から離れて、グループの最後方を転がって行きます。つまり生まれてすぐ自立するという事です。もちろん彼らにも寿命というものがあります。だいたい平均して五十年位です。彼らの最後はだんだん体がいびつになってきて、回転も不自然になり、やがて止まります。それは彼らにとっての死を意味するのです。
 彼らの食糧は、坂道の周りに生えた植物たちです。回転しながら彼らは体の中央部にある触手で巧みに植物の葉や幹を絡めとって食べます。本当に器用です。
 こういう彼らにも気持ちというものがあります。そう言う面でいうなら彼らは高等生物ともいえる程です。考え方は前向きで、気持ちはいつもはつらつとしています。細かい事など気にせず、おおらかでひたすらに転がるのです。時々彼らは歌を歌います。高速で回転していますと気持ちの底から湧き上がる喜びを、つい歌ってしまうのです。
 しかし我々人間がその歌声を聴いたら、それはゴーンと言うような風の音にしか聞こえません。
 ある時、彼らの一個にアデムという子が生まれたのですが、その子は不幸な事に生まれたときから少し体が歪んでいました。遅いので知らず知らずのうちにグループから離れそうになってしまいます。親はもちろん心配なので回転を緩めて様子を見るのですが、どうする事も出来ないのです。それにアデムは時々意識が薄れる時があります。それはとても危険な事で、例えば路の途中に障害物があったとき等は、それにぶつかれば命を失いかねません。アデムと同時期に生まれた子供たちは、アデムが心配になります。それでなくても転がるのが辛そうなのです。実際アデムは身体が痛いのです。きれいな円でないので、体のいろんな箇所に負担がかかるのです。他のもののように転がるのが喜びに感じられないのです。
 でも仲間たちはそんなアデムを両脇から支えるようにして、なんとか助けてくれましたが、それが嬉しいと同時に、だんだんアデムには苦痛になってきました。自分の存在が他のものに迷惑なような気がしてならないのです。精神的にも苦しい事でした。
 そんなある時、仲間で一番早いイーマというものが、とてつもなく長い急坂を見つけました。それはいままで見たこともない急斜面で、絶壁といっていい程でした。イーマもそれを見たときさすがに怖くて、転がる勇気がありません。仲間たちも一緒です。そこでアデムはこう言ったのです。「僕が転がってみる。もし大丈夫のようなら大声を出して合図する」と。
 まわりは大反対です。とてもアデムには無理に思えたからです。でもアデムは様子を見るふりをして、不意にその絶壁に体を躍らせたのです。
 みんなは驚き、やがて悲しみました。まさに自殺行為だったからです。みんなが涙ぐみながら絶壁の下を眺めていましたが、アデムからの合図などありません。いつまで待っても無駄でした。そしてみんなはまた転がり始めるのでした。
  *
 ですがアデムはその過酷な急斜面を今も転がっています。あまりに急な坂なので身体の痛みなど、どこかにすっ飛んでしまったのです。快感です。けれどアデムは自分の寿命がそう長くないのを知っています。本能的に悟っています。でもアデムは泣くのが嫌いです。反対に歌い始めるのです。高らかに。それは小さなアデムの生命の歌です。
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一瞬、「ハイウェイ惑星」かと思ってしまいました。

この生物、谷底にたどり着いたらどうするんだろう(^_^;)
2014.05.30 12:45 | URL | ポール・ブリッツ #0MyT0dLg [edit]
ポール・ブリッツさん。コメントありがとうございます。

ごもっともな疑問だと思います。アイデアはいくつかありますが、例えば坂を下るときに体にあるぜんまいみたいなものを思い切り巻いておいて、坂が終わる寸前に他の坂に飛び移るとか、坂道自体がワープホールだとか、2000字で書いたのもので、その部分はごまかしてしまいました。悪しからずm(__)m
2014.05.30 18:09 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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