悪魔就職する

Posted by 松長良樹 on 09.2010 1 comments 0 trackback
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 ――その悪魔は自分の奇抜な発想に多少酔っている節があった。醜悪で怖い顔に密かな笑みを隠したあの魔族の代表である。
 昨今の地獄では悪魔の仕事がめっきりと減った。最近の人間たちは自己中が多く、地獄に落ちてきて悪魔となる者の数が増え、その結果、魂を集めると言う仕事が過当競争になってしまったのだ。
 魂集めの市場は確かに拡大しているのだが、個々の仕事は逆に減っているという始末だ。
 そこでその悪魔は人間界で仕事を見つけようと思い立ったのだ。他の悪魔たちがどんな顔をするのかは判らないが、もともと悪魔の神経は極太で他者がどう思おうと意に介さないのだ。
 しかし悪魔が就職するなどとは歴史が始まって以来の事であった。そもそも悪魔は何もしないと言うことが苦手だった。誰かを不幸にしなくてはいられない性分なのだ。

 悪魔は高級なスーツをあつらえ、面接会場に向かった。二次面接である。実を言うと悪魔は書類選考で三十社あまりの企業ではじかれた。なにしろ履歴書の学歴欄に魔王大学院に学び、誰よりも優秀と書き、自己PRのスペースには私に出来ないことなどありませんと書いたのだから、無理もなかったかもしれない。
 しかし悪魔の採用に前向きな職場がたった一社だけあった。それは地方の某テレビ局だった。最初は悪魔太郎の名を見て面食らったが、好奇心旺盛なプロデューサーの高橋は何かしらの鼻を効かせ、面接の運びとなったのだ。 もしかしたらタレントとしての起用も有り得ると踏んだのである。
 悪魔が上等の黒いスーツを着て面接官の前に座った。面接をするのは高橋をはじめ、テレビ局の幹部連中計5名であった。
「志望の動機は……」という質問に悪魔は自信に満ちた表情をつくってこう答えた。
「仮に私が御社に入社できれば、この小さな貧乏くさい地方局を、世界一のテレビ局にしてさしあげましょう。私は何でも一番でないと気が済まない」
 幹部連は顔を見合わせて驚いていた。
「それは、随分と素晴らしいお話ですが、その具体的な方法についてお聞きしたいものですねえ」
「それは言わずと知れた事、魔力を使うのです。私は魔族ですよ」
 ここで面接官の質問は途切れてしまった。四人は悪魔の採用を見送ろうとしたが、高橋のたっての頼みで一ヶ月の試用期間が設けられた。

 ――高橋の思惑は的中した。悪魔の活躍は目覚ましかったのである。あらゆる番組を制作し、想像し、創作した。悪魔は素晴らしいクリエイターとしての素質を十二分に持ち合わせていたのだ。
 例えば、『地獄のジェットコースター』はゲーム番組で、問題に答えられないものは容赦なく地獄の血の池に叩き落されるという嗜好だったし、『死ぬまで歌え』はとにかく知っている歌を歌い続け歌えなくなったものは鬼に食われるという番組だった。
 中でも圧巻は汚職政治家とそれを告発する視聴者が命賭けで行うロシアン・ルーレットだった。番組名は『くたばれ、悪党』で、息をもつかせぬ演出で高視聴率をたたき出した。
 安心してほしい。これらの番組の中で実際に人が死んだわけでなく、すべて演出であった。しかし、視聴者の中にはそれを本気で受け取り、心臓発作で亡くなる者まで出る始末だったし、残酷だというクレームは後を絶たなかった。にもかかわらず、悪魔の製作したテレビショーは高視聴率が続き、お化け番組が誕生したのである。
 国民は番組の悪口を言いながらも、その番組に魅入られ、子供は早く寝かしつけられ、親達は手に汗を握って番組に没頭した。その番組の放送される金曜の晩は誰もがリアルタイムで会社員は残業もせず、それを見続けたのである。

 しかし、まことに残念なことに悪魔はテレビ局をまもなく解雇された。
 なんと悪魔はスポンサーからの謝礼を魂で徴収してきたのである。慣習とは恐ろしいもので悪魔は金銭には異様なほど淡白で、魂のみに価値を見出していたのだ。そのおかげで一流企業から大勢の死人が出てしまった。
 
 悲嘆にくれたのは高橋プロデューサーであった。彼はしばらく呆然として仕事さえ手につかない状態であったが、数週間の休養をとって見事に職場に復帰した。

 しかし高橋が新たな採用希望者の履歴書の中から天使ミカエルの名を見たときは、たいそう驚いた。
 志望の動機欄には世の為、人の為と書かれており、特技は浮遊だそうだ。
 高橋はその履歴書をしばらく眺め、一瞬考えていたが、
「もう懲りたさ、勘弁してくださいよ」
 ――と溜め息をつき、その履歴書をまるめてごみ箱に放り投げてしまった。



                        おしまい。
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よくできたお話で、ただただ感心です。
悪魔と天使が就職活動をするというアイデアもいいし
その結末もいいっすねえ。
2010.11.10 20:39 | URL | ヴァッキーノ #- [edit]


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