天国か、地獄か?

Posted by 松長良樹 on 13.2016 0 comments 0 trackback
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 男は死んだらしい。交通事故だ。自転車に乗って交差点に差し掛かった時、思い切り乗用車にぶつかって体が宙に舞った。が、そこからの記憶がさだかではない。病院にいたような気もする。ところが男の前に立っているのは高級スーツ姿の紳士だった。
 しばらく男はその紳士を不思議そうな表情で観察していた。そして質問しようとしたが口をきいたのは紳士が先だった。
「君は善人でも悪人でもないな、中間。どっちつかずだ」
「はあっ?  ――あなたは誰ですか、そしてここはどこで俺はどうなったのですか?」
「わたしはエンマだ」
「え・ん・ま……」
「そう」
「まさか、あの閻魔ですか」
「そう、その閻魔だよ」
「ということは、ここは地獄……」
「ご愁傷さまということだが、ここは地獄ではない。冥界だ。わたしは冥界の王でもある」
「――やっぱり。俺は死んだのか」
 男は気が抜けたような声をだした。男がいるのはステージ上でスポットライトが当たっていた。
「それにしてもお洒落なエンマ様で、イメージが変わりました」
「最近のエンマはおしゃれしている。綺麗な娘も来るからね。で、天国を先にするか? それとも地獄を先にするか?」
「どういう意味ですか、それは」
「説明してやる。本来悪人は地獄、善人は天国と行くところは決まっている。だがお前は善人でも悪人でもない。最近は中途半端な奴が多い。だから両方に行かせる。フィフティー・フィフティーだな。だから先にどっちに行くかと聞いている」
「……」
「ちなみに、天国は三日、地獄も三日、それが済んだら穏やかな冥界に行けるようにしておく」
「どうしても選ばなくてはいけないのですか?」
「選ばなければならんな」
 男は懸命に考える。考える。そして答えた。
「先に地獄に行きましょう。後に天国が待っているほうが気が楽ですから」
「うむ、わかった」
 エンマは指をパチンと鳴らせた。
 途端に男は地獄の業火に身を焼かれ、裸にむかれて針の山で串刺しにされる。 連続する果てしない責め苦の数々……。 痛い! 苦しい!! だが男は耐える。歯を食いしばって耐える。三日辛抱すれば天国が待っていると思うから。
 そして、苦しい事は長く感じるのだと自分に言い聞かせる。  しかし、いつまで経っても地獄、いつまで待っても地獄。

 それにしてもエンマも人が悪い。実は地獄の一日というのが人間界では、ちょうど一億年に相当するのだった。


            ああ、おしまい。



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