感傷的宇宙航海日誌 Ⅲ

Posted by 松長良樹 on 15.2016 0 comments 0 trackback
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 20XX年 08.30 T.P記述

 我々は宇宙を自由自在に航行するテクノロジーを得てから宇宙には限りなく生命が存在し、輝いているのを知った。今まで他の知的生命体に出会わなかったのが嘘のように思える。
 宇宙の暗黒時代は過去のものになったのだ。そして我々は銀河のかなたに究極の星を発見した。
  その星の存在は宇宙の風に乗って知らされたとでも述べておこう。
 その星の人々は皆が皆、幸福そうな笑顔を湛えていて、人間はその星を称して理想の星だとか、桃源郷だとか、預言者の星だとか言って称賛した。
 そして我々はその星を視察するために複数の優秀なメンバーたちとその星に降り立った。
 まず我々を迎えてくれたのが整列された民衆と、ゴーダという星の支配者で、ゴーダは身長が二メートルもあったが柔和な微笑みをいつも絶やさなかった。お決まりのセレモニーが済むと艦長とゴーダが固い握手を交わした。
「我々は、はるばる太陽系第三惑星からやって来ました。コバヤシといいます。感無量です」
 艦長の第一声は多少震えていた。
「ようこそ、いや、本当にようこそ」
 ゴーダの言葉は少なかった。というより余計な言葉がなかった。
「我々はしばらくこの星に滞在させていただきたいと思います。そしてあなたたちの『共産的自由主義』に学ばせていただきたいと思います」
 艦長が極度の緊張から解放された。
「ええ、いいですとも。いくらでもここにおいでなさい。必要な情報でも物資でもなんでも調達なさい。あなたたちを心から歓迎する」
 ゴーダの言葉は格式があり、堂々としていた。しかし、艦長をはじめ乗組員がこの星に長く留まることはなかった。わずか二日にして艇は地球に帰還することになった。なぜそんなにはやく?と疑問が残るかもしれないので、懇親会で記録係を務めた私が懇親会での会話のさわりをここに記そうと思う。これは人間の病気や寿命に話が発展した時の会話である。
「我々は癌をいまだに克服できないのです」
 艦長の言葉にゴーダは答えた。
「癌? それはちょうど我々のかかるソイルに似ている。細胞が変質して、自らの体を攻撃する」
「ええ、そうですまさに癌だ。で、この星に病院が少ないと聞きましたが、それをあなたたちは根絶さたのですか?」
「いえ、滅相もない。ソイルは病気でなない。自然の仕組みです。道理ですよ。したがって治療などしません」
 艦長はしばらく絶句した。そしてすべての民が50歳で死ぬようカプセルを渡され、だから若者の負担はないと聞いたとき艦長の顔が青ざめて、厳しい顔になった。
「我々の星に犯罪も貧困も不満も存在しない。従順で健康で善良な子だけに生きる権利が与えられる」
 艦長コバヤシはゴーダの言葉を最後まで聞かなかった。
 人々が常に笑顔で、感謝の心をもって今を生きる理想の星。我々は生涯あの星を忘れはしないだろう。だが、二度とまたあの星を訪れることもないのだと思う。
 この日誌に個人の感情を差し挟むのは厳禁だが、私はゴーダが繰り返した言葉が今でも心に残っている。
「個のために全体があるのではなく、全体のために個がある」
 考えさせられる言葉である。

                         つづく
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Category : SF小説


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