インセンティブ・ムービー

Posted by 松長良樹 on 22.2016 0 comments 0 trackback
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 最近めっきり、面白いテレビが減りました。ドラマもマンネリだし、バラエティも阿保らしいし、テレビを録画までして観ようとする番組がないのです。昔はテレビが見たくて早く会社から帰ったこともあったくらいなのに、今は何を見てもつまらない。そんな風にミキヤは思っています。
 ミキヤにとってテレビはニュースを知る為だけの道具と化しました。映画も同じです。最近のミキヤほとんど映画館に行かなくなったし、ときめくものがない。ゲームのほうがまだ面白いのです。
 そんなある時、ポストに宛名のない茶封筒が入っているのを発見しました。おおかた、近所のスーパーかなにかの宣伝だろうと封を開けると、白いディスクが一枚入っていました。説明書きもなにもないのです。
 躊躇したミキヤでしたが、レコーダーに入れてみると、いきなり映像が再生されて見覚えのある人物の顔が現れたのです。黒いセーターを着てソファに座っている。
「やあ、こんにちは。やっぱり見ましたか、見ると思っていました」
 そこにはミキヤそっくりな男が……。 というか、もしかすると彼自身かもしれないのですが、妙に馴れ馴れしく、微笑みさえ浮かべてミキヤに語りかけてくるのです。
「あなたは最近のテレビや、映画の映像に飽き飽きしていたのでしょう? だったらこれをご覧なさい。スリルがあって退屈はしないと思います。そう、実はこれからあなたの未来についてお見せするのですが、怖かったならすぐにでも、スイッチをお切りなさい。無理に見せる気なんて私には更々ないし、強制なんて出来っこありませんから。スイッチを切るなら今です。後になると切れなくなります」
 画面の中のミキヤみたいな男はそう言うと暫く、画面の中から覗き込んでいましたが、ミキヤがレコーダーを停めないのを確認すると、満足そうに頷きました。ミキヤがとても驚いてその画面に釘付けになったのは言うまでもありません。
  ――画面が切り変わりました。
 武装をした一人の男が道路にいます。それは中東あたりの兵士か、頭にターバンを巻いて目つきが険しく、精悍です。これはアクション映画かな? それとも戦争映画かな? そんな風にミキヤは思いました。
 その男は最初、道路に立っていましたが、あたりを入念に観察してなにか目標でも発見した様子になり、身をかがめて走り出しました。とても俊敏な動きで、鍛えられた兵士、忍者の動きさえ連想しました。なんだか心臓がドキドキしてきました。映画をみて胸がときめいたというのはもう何年も、いやもしかすると何十年もなかったことです。
 面白いのです。次に何が起こったかというと、その武装した男を警官が発見して、後を追ったのです。この時その警官が見慣れた日本人なので、舞台は今の日本なのだとミキヤは思いました。しかし、その武装兵は追ってきた警官を交差点の角で待ち伏せして射殺しました。リアルでした。手慣れた兵士の動きです。
 喉を撃たれた警官が血まみれになって道路に転がりました。その武装兵はとどめを刺すように執拗に弾丸を警官に撃ち込みました。
 残酷なシーンでした。そして兵士は再び駆け出したのです。するとなにやら、その風景が見覚えのある場所なのです。デジャブでしょうか、幻覚でしょうか、訳も分かりません。ただミキヤはもう画面に引き込まれていました。鳥肌が立ちます。

 胸騒ぎがします。嫌な予感がします。ついに武装兵の顔がアップになりました。浅黒い顔色、鋭い眼、そして引き締まった口元。
 ああ、それはしかしミキヤ自身に生き写しなのです。どうみてもミキヤなのです。なんだかとても怖くなってミキヤはレコーダーを停めようとします。だが止まらない。ミキヤはレコーダーを何度も思い切り叩きました。

 男は一軒の家の前に立ちます。とうとう目標を見つけたのでしょうか?
 そうして家の窓に小銃を構えて武装兵は立ちました。直後にミキヤの家の窓ガラスが音を立てて……。

 その様子を別の窓から眺めている者がいます。黒いセーターのミキヤです。


                             end


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