天国の白い猫と黒い猫  天国か地獄か、パートⅲ

Posted by 松長良樹 on 15.2016 0 comments 0 trackback
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 ――長い階段だった。段の幅が広くきれいに整えられた階段だった。
 目を開けると男はそこにいた。男は死んだのだ。長年刑務所に入っていてやっと刑期を終えたのだが、風邪をこじらせ、それだけのことで肺炎になって逝ってしまった。
 若いころの男は相当の悪人で闇取引から人殺しまで犯してきたが、中年から晩年にかけては好きな女性が出来たのをきっかけに、その罪を反省し、罪の償いに半生をささげてきた。
 男は前方にどこまでも見える階段を眺めて溜息をつく。そして階段の意味を自分ながらに解釈しようとした。
 ――俺は死んだはずだ。その俺に見えるのだからこの階段はもしかしたら天国に続く階段かもしれない。この罪深い俺が天国に召されるのなら、俺の償いを神が認めたということなのだろうか? それとも逆に神が俺を弄んでこんな仕掛けを作ったのだろうか?
 男の想いが錯綜する。 それにしてもその階段は大理石のような高尚な輝きに満ちていた。

 するとそこに、やつれ果てた老人がどこからともなく出現した。現れたと同時にその老人はその場に倒れこんでしまった。ぼろぼろの服を身にまとった爺さんである。男はそこに駆け寄り老人を覗き込んだ。
「いったい、あなたはどこから来たのですか? 大丈夫ですか?」
 老人はひどく憔悴していて、息も絶え絶えなのだった。男が抱き起すと、老人がしゃがれ声をだした。
「わ、わたしに構わずお行きなさい。この階段の先に、天国の門があなたを待っている。さあ、時間がありません。早くお行きなさい」
 しかし男は思った。 ――これは神の仕業かもしれない。神は俺を試そうとしている。この俺が慈悲深い人間に生まれ変わったかどうか、きっと確かめているのだと。だから男は老人を抱えてこう言った。
「もし天国に行かれるなら、あなたも一緒にお連れしましょう。私だけが天国に行ったって神は喜びませんよ、きっと」
「おお、なんと慈悲深いお人なのでしょう」
 老人はすすり泣いているようだった。しかし老人の体は予想以上に重く、階段を行くのが難儀で、何度か放りだしたくなったが、ぐっと我慢をした。――ここで放り出したら俺の負けだ。      
 そういう風に男は思った。
 そうしているうちに階段の上から、なにかの塊(かたまり)が転がってきた。よく見るとそれは二匹の猫で、一匹は白いふっくらとした猫で、もう一匹は黒いしっとりとした毛の猫だった。
 男に興味があるように二匹の猫はじゃれ付いてきた。
 猫嫌いな男は追い払おうとしたが、猫の動きは敏捷でなかなか思うように追い払えない。老人を抱えているから尚更だった。
 そこで男は若い時に猫を虐待し、傷つけた事を思い出した。それは忌まわしい記憶で忘れ去ろうにもどうしても忘れる事の出来ない心の重荷だった。
 ――俺はなんて罪深いのだろうか、男は自分こそが一番自分を許せなかった事に気づいた。 ――猫は神が俺を試すためにやっぱりここに現れたのか……。だがもう俺にはどうにもならない事だ。
 男はそう思い、気持ちが不安定になった。
 その瞬間、男は腕に激痛を覚えた。男が自分の腕を見るとなんと老人が自分の腕に噛みついている。老人の顔はもう柔和ではなかった。険しい獣の形相がそこにあった。血だらけの腕。男は恐怖に打ちのめされた。怖い。
 男はたまらず老人を放り出した。老人がぼろきれみたいに階段を転げ落ちてゆく。その光景を見ながら男は絶叫した。
「神よ! 俺はやっぱり救われません! ああ、俺は罪人です。どうぞ地獄に落としてください。地獄の業火でこの身を焼き尽くしてください!!」
 すると男の全身からオーラのような光が迸り、その光が益々白く強くなり、ついに男を野球ボール程の光の玉に変えた。

「きれいな、純粋な魂になったようだね」
 それを見て白い猫がそう言った。
「うまそうだから食うか?」
 黒い猫も舌舐めずりしてそう言った。
 いつの間にか天国の門が目の前にそびえていた……。

                 end
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