スポンサーサイト

Posted by 松長良樹 on --.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

旅の化け物 (昔話風)

Posted by 松長良樹 on 10.2016 0 comments 0 trackback
200_convert_20160510215041.jpg

 これはもうだいぶ昔の話なんだが、ある若者が北の地方を旅しているとな、夕暮れ時に山道に迷ってしもうて、ちょうど村があったので一夜の宿を求めてのう、村に入っていくと、なんだか村の衆が浮かない顔なんだな。なんかこう覇気がなくって、沈んだ顔をしておる。旅の若者は多少の金は持っていたから、宿を頼むとな、飯がないというのじゃ。
 これにはさすがに若者も驚いてのお、ずいぶん意地の悪い村だと思っていたら、本当に飯がないらしいんじゃ、だがよう、外は寒いしな、野宿なんてできないし、宿に上がり込んだ若者は、囲炉裏で体を充分に温めてから、傍にあった鎌を握りしめると、寒空に飛び出して行ったのじゃと。なかなか若者が帰らないので、村人も旅人はもう帰らないのかと思っているところへ、若者は帰ってきたんじゃな。頬を真っ赤にしてな、息を弾ませ、大きな猪を肩に担いでおったそうだ。
 若者はその獲物をドスンと囲炉裏の傍に投げ出して「これを鍋にして喰おう」とそう言ったそうじゃ、村人は驚いていたのじゃが、それを時間はかかったが、宿の亭主と女房が猪鍋にすると「さあ、みんなで食おう」と若者は言ったんじゃ。
 そしたらなあ、宿の襖が開いて五~六人の男女が入ってきてな、黙々と鍋をつついてのう、亭主も女房もみんなでものも言わず、猪鍋を喰いだしたのじゃ、それはなんとも異様な光景であったそうな。きっと腹を減らしていたんじゃろう。
 するとなあ、そこに外から戸が開いてみすぼらしいぼろを着た男が入ってきたんじゃと。
 顔は皺くちゃで小太りの爺だあ。その爺は「腹が減りもうした~」と何べんも繰り返すと、その鍋を独り占めにして喰いついたそうじゃ。それを見た亭主が怒ったのか、後ろから鎌を振り下ろしたんじゃ。そうしたらな、爺の頭に鎌がぐさりと刺さったんじゃが、爺は平気なのじゃ、応えんのじゃよ。血も出ねえ。反対にその爺は亭主に向かって、頭に刺さった鎌を抜いて、逆襲したのじゃ、可哀想に亭主は鎌が胸に刺さっておっちんだ。この時初めて、旅の若者はその爺は化け物だと気づいたそうじゃ。
 で、爺が猪鍋を全部平らげて出て行ったのでな、若者は詳しい話を死んだ亭主の女房から聞いたそうだ。しくしく泣きながら女房はこんな話を始めたのじゃ。いまから三年前にあの化け物『腹減り爺』は山から下りてきたそうな。それでどこの家とは言わず、村中の家に上がり込んでは「腹が減りもうした~」を連発して、村の食べ物の殆どを平らげたというのじゃ、
 目がでれーっと垂れててよ、いつも涎を垂らしているんじゃな、この爺。村の血気盛んな連中があるとき、困り果てて鍬で爺を襲ったんじゃが、反対にやられてしまったそうじゃ。若者はそこまで聞いて、きっと心優しい若者だったんじゃろう、腕を組んで考え込んでしまったらしい。村の苦難が見過ごせなかったのじゃろうなあ。
 若者はよう、村の人を集めてもう一度腹減り爺のことを詳しく聞いたんじゃが、どうやら、爺が子泣き爺の親戚だということが解ったくらいで、他には何にもわからなかったそうなんじゃ。
 しかし若者は諦めなかったのじゃ。その若者は三日三晩、寝ずに考え込んでおったが、考えが閃いたらしく、村人達に膠(にかわ)と栓と眠り薬はないかと聞いたんじゃ、そんなもん村にねえなあ、と皆が答えたが、若者は膠と栓は俺が作るから、なんとか眠り薬を作ってほしいと頼んだんだそうじゃ。そうしたらたまたま村の医者みたいな、むろん医者ではないがな、そんな男がなんとか眠り薬をつくってみるかと言ったのじゃ、苦心の末、薬ができたというので、若者はまた山で猪を取ってきたんじゃ。腕のいい若者じゃなあ。
 そうしていい匂いをさせて猪鍋をつくりだすと、案の定、腹減り爺はやってきてな、あらかじめ眠り薬の入った鍋を喰わすと、瞬く間に平らげ、がーがー高鼾で寝たとよ。
 そうしてな、腹減り爺は翌朝からもう「腹が減りもうした~」決して言わなくなったそうじゃ。 どうやったかって? 若者は爺の寝ている隙に尻の穴にたっぷり膠を塗った栓をしたんじゃとよ。

 それで若者は村人達に感謝されながら村を出たんじゃな。握り飯まで持たせてくれたそうじゃ、米は床下に隠してあったらしいがな。そうすると夕方近くに、またもや、道に迷ってしまったんじゃ。遠くに明かりがあるので、そこまで行くとまた村があったんじゃ、そこで、一息ついて昨日の村のことを話したんじゃが、村人は若者に夢でも見たのじゃないかと言うんじゃな、この痩せた土地に村なんて他にないというんじゃなあ。
 見ると囲炉裏が前にあってよ、変な爺がニヤニヤこっちを見て笑っておるんじゃよ。
 それがどうみても、そのう、どこかで見たような……。


                  ここで、しまいじゃ
スポンサーサイト
Category : 未分類


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://kitunosuke8.blog33.fc2.com/tb.php/432-dabca054
▲ top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。