願い

Posted by 松長良樹 on 04.2016 0 comments 0 trackback
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 曇り空の市民公園をジョギングしていると悲鳴がした。私は聞き耳を立てた。だれかが公園の近くの川で溺れているらしい。私はまわりに助けに行けそうな人がいないか冷静に観察してから、これは緊急だと悟り、私が助けに行かなければなるまいと思った。もう四十に手が届く年齢だが水泳には少しばかり自信がある。
 私は軽装だったのでそのまま川に駆けていき、思い切り飛び込んだ。もちろん私は水難事故の場合、飛び込むのは最終手段だと知っている。が、私はあえてそれをした。
 急流のなかを泳ぐと、溺れているのは子供でパニック状態に陥っていた。身の危険を感じた私は、子供を咄嗟に殴って意識を飛ばした。こうするより他にない。
 そしてようやくの思いで岸にたどり着いた。もう少しで私自身も流されるところだった。公園の石畳まで男の子を引っ張り上げ水を吐かせ、人工呼吸をした。もう大丈夫だ。
 私の全身がまだ小刻みに震えていた。すると私は背後に視線を感じた。ふりかえるとそこに白いベールの美しい女性が立っている。そして優しい声でこういった。
「見事でした。あなたの今の働きはすばらしい」
 私はただ黙っていた。
「望みを一つ叶えましょう」
 その言葉に私が尚も黙っていると女性は続けた。
「わたしはこの川とつながる湖の精です。今の働きを神がお認めになられました。なんなりと願いを一つ叶えましょう」
 だが、私にはその言葉がすぐには信じられなかった。
「あなたが湖の精だというのは本当なのですか?」
 すると突然、体が急に軽くなり、私の体が空中に浮かんだ。
「信じていただけましたか」
 女性が優しいまなざしのまま、そう言った。
「すごいお力ですね」
 ゆっくりと着地して私はそう言った。私は冷静に考えていた。
「では、願いを言っていいですか」
「はい」
 女性がかすかに微笑んで頷いた。
「私はこの地上に神の国を実現したいと考えております。で、それをするにはひとまず今あるものを打ち壊さなければなりません。来週に市民公会堂で私は自爆テロを決行いたします。それを成就させるのが私の願いです」
 
 ――女性の笑みが失せた。

                     End
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