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心の雨

Posted by 松長良樹 on 07.2016 0 comments 0 trackback
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  ――心の内側に雨が降っている。窓から見える空はこんなにも晴れているというのに。
 それというのも知ってしまったからだ。私の食事に妻の玲子が毒をもっているという恐ろしい事実を……。
 私と玲子とは歳が二回りも違う。だから玲子が私と添い遂げると言った時に一抹の不安を感じずにはいられなかった。だが私は玲子の美貌に心身とも魅了されてしまった。玲子はあなたの創作の仕事が好きだから、傍にいてあなたを支え続けたいとも言った。
 それが偽りだったなんてとても信じられない。今でも。
 なぜその事が分かったのかというと、観賞魚が好きな私は、寝たきりになってからもベッドのすぐ横に水槽を置いてもらっていて、ある時食が進まず、玲子が毎日ご飯の上に振りかけてくれる元気が出るという特製の粉末を、ほんの一つまみ魚にくれてやると、翌日にその魚の様子がおかしくなり、その翌日には水槽に浮かんでいた。もちろん動かずに。私は玲子に気づかれないようにその魚を始末した。そういう事が二度あった。
 ああ、きっと玲子は他に若い男でも作ったのに違いないのだ。私が邪魔になったに違いないのだ。
 これも私が莫迦だった報いなのか。でも玲子が私より、私の財産を愛しているにせよ、玲子が好きなのだ。なにをされても放したくはない。

 玲子の連れ子の良二は六歳で、私にとても懐いてくれた。好きなものを何でも買ってやった事もあるかもしれないが。
 そしてとても素直でなんでも言うことを聞く。ある時私は良二を玲子に知られないように呼んでこう言った。
「なあ、良二。お母さんは毎日元気が出る薬を私に飲ませてくれて、最近父さんとても元気が出てきたんだ。でも父さんだけが元気になってもしょうがないだろう。毎日父さんの世話で疲れているお母さんも元気にしてあげなくちゃいけない。なあ良二、あの元気の出る薬がどこにあるか、おまえ知っているか?」
 すると良二は得意そうに頷いて「知っている」と答えた。
「じゃあ、良二、お母さんにわからないように、お母さんの飲む、茶でも、みそ汁でもいいからそれをうんと沢山入れておあげ、よくかき混ぜるんだぞ」
 良二は元気よく「はい」と答えた。

 ――あれ以来、玲子の顔を見ていない。罪滅ぼしに私もまたそれを飲もう。

 ざわざわと、心の内側に雨が降っている。しくしくと心の奥に向かって雨が降っている。
 この世界のなにもかも、雨よ、洗い流しておくれ、あとかたも残らないように。

                    end

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