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蕎麦かもしれない

Posted by 松長良樹 on 06.2016 0 comments 0 trackback
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 宇宙人が言った。
「これはいったいなんだ?」

 ここは地球から遠く離れた惑星。
 遠方に変わった形の山々がそびえ立ち、奇妙な建造物が都市を形づくっている。その中央の広場に複数の宇宙人が集まっている。その容姿については詳しく書かない事とする。なぜって読者が気分を害するといけないから。
 ともかく、そこに提出されたものは地球から持ってこられたものだ。彼らの探査船は何回も地球に送り込まれ、地球研究の足掛かりとして様々なものを収集してきている。
 しかし今回彼らの研究員でもある宇宙船クルーが持参したものは、彼らには見当もつかないものだった。細長くくねくねとしたものだ。
「で、これは?」
 司令官のように規律正しい彼らの一人が、それを持ち帰った宇宙船クルーにそう訊いた。
「それがそのう、よくわかりません」
「では、これはどこにあった? これのあった場所から推測するしかない」
「はい」
 宇宙船クルーは頷いて記憶を手繰るように空を見上げた。
「これはたしか、東西に細長い島のような国で見つけたものでして、たしか地球 人の集まる繁華街の中の彼らの言う飲食店の中でした」
「飲食店とはなんだ?」
「は、はい。食事を摂るところです」
「彼らは他の者の前で食事をするのか」
「はい」
 司令官が顔をしかめた。
「なんという恥知らずな人種だろうか。彼らは」
「仰せの通りで」
 宇宙船クルーはかしこまって膝をついた。司令官と宇宙船クルーとではかなり身分の隔たりがあるようだ。
「飲食店のなかにあったのだな? これは」
「はい」
「では、彼らが食べるものなのではないのか?」
「はい」
「なんだ、それでは最初から彼らの食糧だと分かっていたではないか。もったいぶって」
「はい。しかし、これの名前が分かりませんので正確なデータが残せないのです。それにこんなものをどうやって食べるのか観察できませんでした」
「確かにこの恐ろしく細長い、紐のようなものが食べ物というのが不思議でならない」
 司令官はその細長いものを、鼻の傍に持ってきたが、思わず顔をしかめた。
「うわっ、何だこの臭いは、ひどいな」
 宇宙人には口らしい口がない。彼らの口は鼻のあたりから突き出た、ブラシのようなもので、そこに食料となる蜜などを浸して吸い取るのだ。ブラシの一本一本は極細の管である。
「ところで地球人の主食はなんだ?」
 司令官が振り返るようにしてそう訊いた。
「それが、きわめて雑食で、地球上の有機物の殆どを食べます。動物の肉や。魚。鳥。木や草や、その実。とにかく手当たりしだいが食べ物なのです」
「ずいぶん貪欲な種族だな。まさか、仲間まで食べるのじゃ、あるまいな」
「いえ、さすがにそれは」
「そうか、それを聞いて少し安心した。しかしこれは不可解なたべものだな」

 司令官は腕を組み、何度も宇宙船クルーの前を行ったり来たりした。そしてさっきから後ろで控えている、臣下と思われる一人に耳打ちした。そして前で傅いたままの宇宙船クルーにこう言った。
「実はな、この星にも地球人がいる。将来スパイにして地球に送り込む計画がある。おまえ達とは別のグループが地球人を拉致してきている。これはまだ極秘だ。かなり従順に我らの言うこときく者だ」
「……」
 宇宙船クルーは驚いた様子だったが無言だった。やがてスイカのような大きな陸上自動車がやってきて、宇宙人に付き添われた地球人がその場に降ろされた。まだ若い男性である。司令官が声をかけた。
「どうだ、新居での暮らしぶりは? 足りないものがあったらなんでもいいなさい」
「――僕を地球に返してください」
 しかし、青年の言葉は無視され質問がなされた。
「実は、このクルーが地球からこの細長い食べ物を持ち帰ったのだが、これが何でどうやって食べるのか教えてほしい」
 青年はかすかに笑った。
「なんだ、よくこんなものをここまで持ってきたものですね」
「君はこれが何だかわかるか?」
「ええ、何度も食べたことがあります」
「では、これはなんだね? データに記憶して保存しておくから教えてくれたまえ」
 青年はそれを啜るようなしぐさをした。そしていっぱくおいて答えた。
「これはスパゲッティという食べ物です」
 周りはしーんと静まり返ったままだ。

 しかしこの青年がこの星に拉致されたことに憤りを覚えていて当然であり、そういう時に人はささやかでも抵抗を試みるもので、だから本当のことを……  
 言わない事もある、かもしれない。

                   おしまい
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