目を開けると…。

Posted by 松長良樹 on 08.2016 0 comments 0 trackback
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 ――ある博士がいた。物理が専門で、いたって善人で、この上なく優秀だが平和主義の博士である。

 その博士が世を憂いた。その理由は世界が平和ではないからだ。世界中で内乱が頻発し、テロが起こり、争いが憎しみを生み、その憎しみがいくつもの悲劇を生み落として行く。
 目には目を――。歯には歯を――。 古代の法典にあるこの言葉は復讐を正当化する言葉に違いないだろう。
 だがしかし、復讐によって世の平和は来ない。かのジョンレノンは、差別や、貧困や、争いのない理想郷を歌ったが、その理想は一発の狂弾によって打ち砕かれた。
 博士はある時、この世に嫌気がさし、平和な世界が実現されるまで眠りにつこうと思った。
 人工冬眠装置は博士と技術者チームによって心血を注いで作り上げられた。そして平和な世界が実現した時にこそ、目覚められるようにセットされた。博士には二人の息子がいたが、一人はテロの巻き添えになって亡くなった。博士はもう一人の息子が幸せな家庭を持つのを見届けると、人工冬眠装置にひとり搭乗すると、永い眠りについた。

 やがて時は過ぎ、博士の名も研究も、人工冬眠装置の存在さえもが、人々の記憶から消えた。しかし博士は眠っていた。途方もなく長い時間である。
 そしてついに博士が覚醒するときがきた。装置は精巧に確実に作動していたのだ。

 博士はゆっくりと目を覚まし、星々を見上げた。
 
 ――そしてすぐに地球が無いのを知った。

                      
                            END
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