ロケットの中の殺し屋

Posted by 松長良樹 on 07.2016 0 comments 0 trackback
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 漆黒の闇の中を音もなく航行する一隻の宇宙船があった。クルーの総員はわずか13名、キャプテンのナカノは優秀なクルー達に感謝し、愛着を憶えていたがそれを口には出さなかった。彼は任務に規律を重んじる誠実な人間に違いなかった。
 そんな折、地球の基地局から通信が送られてきた。それは極秘で暗号化され通信士さえその内容を知ることはできない。ナカノはそれを自分の個室に入って読んだ。そして眉間に皺をよせて低く叫んだ。誰にも聞こえないように。
 内容によれば、なんとクルーの中に敵国のスパイが紛れ込んでいるらしいのだ。そしてスパイの目的はどうやら宇宙探査の貴重な記録と資料を盗み出すことだという。その目的の為なら手段を択ばないということで、そのスパイは誰にでも自由に姿を変えられるというのだ。
 通信士はキャプテンが通信の内容をクルーに明かしてくれるのかと期待していたが、その期待は裏切られ、ナカノはそれから極めて寡黙なキャプテンになった。
どうしたらいいのだという、強迫観念がナカノの胸を否が応でも締め付ける。キャプテンは殊の外、生真面目だから尚のことだ。
 五年の調査飛行が夢のように思える。あと十日足らずで懐かしい地球に帰れるところでこの知らせだ。そしてクルー12名を個別に面談してみたが、まったくスパイらしい人物なんて見当もつかない。逆に全員がスパイにだって思えてくる。
 ナカノは宇宙船の小さな窓から暗黒の空間を眺めて何度もため息をついた。
 宇宙船が無事に帰還を果たした時、ナカノは死んでいた。彼はファイルに遺書のようなものを残している。内容を明かすと
 ――どうしてもクルーの中にスパイがいるとは思えないし、誰だかわかりません。だから私は貴重な記録と資料をすべて灰にしました。二度と読み取れないように。そして私は死んで責任を取ります。はなはだ勝手な私をどうぞ許してください――。

 しかし地球の基地局連中の反応は悲しむクルー達と違い、冷ややかなものだった。
 そして長官はこういった。
「今回の件はとても遺憾であり、きわめて残念な結果でもある。なぜならナカノが本当に自殺したのか疑問が残るからだ。彼はもしかしたら本当のスパイを探し当て、そいつに殺されたとも考えられる。巧妙に仕組まれた事件である可能性がある。私はナカノのことを古くから知っているし、彼が強い意志を持っている男で、断じて私情に流されるような人物でないと確信を持って言えるからだ」
 長官の目に涙が光っていたかそれを知ることはできないが、この事件の真相は今も闇のままである。

                       END
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