MONSTER

Posted by 松長良樹 on 17.2010 2 comments 0 trackback
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 ――怪しいというか、おかしいというか、何か変なのだ。近頃の妻の様子が。
 元々、妻はおっとりしている方なのだが眼つきが最近きつくなった。なにか訳もなくイラついているし、言葉使いまで荒っぽくなった。
 歩き方もなんだか速くなったし、それに伴って頭の回転まで速くなったような気がする。
 単なる思い過しなのだろうか?
 まあ、人間は変わるものだが、それにしても……。

 それに夜が変わった。たまに私が手を出そうとすると、前なら『早く済ませてね』ぐらいの顔をしていたのに、最近は『カモン、ベイビー』みたいな顔をして私を求めてくる。
 事が済んだときには、体中の精気を全部吸い取られたような妙な脱力感に見舞われる。

 そして、食べものの嗜好が変わった。なぜか餃子を食べなくなったのだ。
 中華料理を食べに行くと、餃子を麺類と一緒に注文し、顔をほころばせて、むしゃむしゃと食べていたのに、全く妻はそれを食べなくなったのだ。
 パスタにしてもそうだ。大好きだったぺペロンチーノを全く食べなくなった。食べるのはナポリタンのみ……。 
 変だ。そして食に関して決定的におかしいのは、焼肉店に行かなくなった事だ。月末には家族で焼肉店に行くのだが、最近は妻の反対で寿司屋か、和食の店に変更を余儀なくされる……。怪しい……。
 この思いは日を追うごとに徐々に、しかし確実に強まっていく……。
 またこの頃妻は陽の光を極度に嫌うようになった。外出する時はサングラス、帽子にコートという格好だ。いくら日焼けしたくないと言っても、真夏のコートはない。どうもおかしい。実に妙なのだ……。
 そして更に、もうひとつ。
 妻は鏡を嫌うのだ。化粧の時さえ鏡を使わない……。
 なぜだ。変だ……。  
 私はこれらの事実から推測して、あるひとつの結論に行き当たった。
 恐ろしい結論だ……。 ――本当に恐ろしい。
 私はその結論を裏付ける為に十字架をポケットに隠しておき、ある時いきなり妻に見せてみた。
 悲しい事に妻は驚くほど狼狽し、部屋から逃げるように出て行ってしまった。 

 私は今ここに鏡を持っている。これは最後の実験だ。
 鏡に映らなければ妻はドラキュラの類に間違いないだろう。しかし、中世の世ならまだしも、この現代にそんなものが存在するのだろうか?
 私は妻の部屋にノックもしないで入り、振り向きざまの妻を鏡に映した……。映らない。どう角度を変えてみても妻の姿は鏡に映らないのだ。
 背筋が凍りつくような思いがした。氷の刃で心臓を突かれたような嫌な思いだ。

 正体を見破られた妻はいきなり私に襲い掛かってきた。獣のような牙をむいて私の喉笛に噛り付いたのだ。その早業に俺はなす術もなかった。
 しかし妻の顔が急に険しくなり、眉間にしわを寄せてこう叫んだ!
「おお、まずい。あんた人間じゃなかったのね!」
 私の身体はがたがたと震えだし、窓から見える満月に向かって、遠吠えするのを我慢出来なくなった。
「あんた! ウルフね」
 私の獣面が月光にされけ出されると、妻が恐ろしい形相で叫んだ。
「おまえこそ、やっぱり吸血鬼だったか!」
 私が絶叫すると、今までベッドでスヤスヤとお昼ねしていた愛しい赤ちゃんが
「ぼく、フランケン!!」
 ――と言い放って、額から突き出たボルトを可愛い手で撫でた。

                      おしまい。
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いやはや、なんとも2重3重に連なったオチのミルフィーユ!
妻にだけ焦点を当てていたのに、語り部も実はってのが、いいですね。
ちょっとエッチな夫婦間のリアルさもよかったです(笑)
面白かったです。
2010.11.17 22:47 | URL | ヴァッキーノ #- [edit]
ヴァッキーノさん、コメントありがとさんです。
なんかコメディになってしまったホラーでした。
2010.11.18 21:07 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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