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幽体離脱

Posted by 松長良樹 on 23.2010 2 comments 0 trackback
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 その日の朝、大野太郎が眼を開けると薄暗い部屋に寝ていた。眼の前にぼんやりと天井が見える。かなり熟睡していたようだ。太郎は還暦をとっくに過ぎている。もう七十に手の届く年齢だ。最近は歳のせいか疲れが取れ難く、けだるい疲労感が全身に残っていた。
 太郎は起きようと思ってふと異変に気付いた。いつもと天上の高さが違うのだ…。正確にいうと天上と太郎との距離が狭いのだ。(そんなはずがない。一晩で天上が低くなるわけが無い) 
 そして不思議な事に掛け布団も掛けていなかった。真冬に布団も掛けずに寝ていたのだろうか……。
 次に太郎は身体がやけに軽いのを感じた。まるで宙に浮いているかのように。
 宙に浮く…。 太郎は下を見て愕然とした。ベッドに自分が寝ている。寝ぼけているのかと思った。眼をこすっても頬をつねっても状況は変わらなかった。
 身の竦むような恐怖に太郎は見舞われた。ベッドに自分が寝ていてその様子をもう一人の太郎が上から眺めているのだ。しかし意識があるのは宙に浮いた太郎の方で、ベッドの太郎は昏睡状態と言って良かった。
 悪夢なら醒めて欲しいと太郎は思った。気が動転して心臓の鼓動が高まった。しかし太郎はなんとか状況分析をしようと懸命に考えた。(まさか、これは幽体離脱… そ、そんな)
 太郎はあまりの事に大声を出そうと思った。しかし声も出せなかった。
 暫らくして太郎はなんとか冷静さを取り戻し始めた。
(やっぱりこれは幽体離脱だ。他に考えられない)
 しかしその状況に慣れてくると、なんだかこの状態もまんざら捨てたものではないと太郎は思い始めた。今までの恐怖心が少しづつ消えて、真逆な感情が首をもたげ始めていた。
 身体は軽く自由に空中を飛べる。おまけに気分は爽快だ。まるで出来ない事が無いみたいに肯定的な気分が太郎を支配し始めていた。
 思わず太郎は窓から外へ飛び出した。暫らく空中散歩をすると気分が高揚した。いい気持ちで鳩を追い抜いた。烏を蹴散らした。太郎はいつの間にか自分が幽体離脱した事さえ忘れていた。
 太郎は国技館に向かった。大好きな大相撲を見たくなったのだ。太郎の身体はまさに幽体で人の目には見えなかった。誰にも知られず和服の美人の隣に座り相撲観戦をした。
 大相撲を目の前でただで見れたのだ。やがて結びの一番を見終わり太郎は家に帰る事にした。家に近づくと夕暮れがせまっていた。
 しかし家の近くまでは帰れたのだが困った事が起こった。家が思い出せないのだ。いや、家どころか自分がどこの誰から幽体離脱したのか思い出せないのだ。太郎が途方にくれていると近くで霊の声がした……。
「あんたも自分の身体が判らなくなったの? わしも判らなくなったんだよ」
「えーっ! あなたも霊体なのですか」
 太郎が驚いて大声をあげようとして堪えた。
「そうだよ。もうわしは三日も彷徨っておるんじゃ」
 ――老人介護施設、認知症の病棟の上空で二つの霊体があてどもなく彷徨っていた。

                            おしまい。

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幽体離脱したら、また元に戻るか、それともあの世に行っちゃうのがオチなんでしょうけど、彷徨うオチ!
まんまとやられましたあ!
老人を主人公にすることが、ボクはほとんどないので、なるほど~と唸りました。
こういうのもアリですね。

ところで、宣伝です。
今、クリスマス競作企画というのをやってます。
クリスマスをテーマに、なにかお話を書くというものです。
もし、よろしかったらどうですか?
詳しいやり方は、ボクのブログの昨日の記事に載ってます。
みんなでワイワイできたらなあと、松長さんにもお誘いしてみました。
いかがですか?
2010.11.24 19:26 | URL | ヴァッキーノ #- [edit]
ヴァッキーノさん。 コメントありがとうございます。

お誘いありがとうございます。
みんなでわいわい。楽しそうですね。
自信ないけどサイトを覗いて見まーす!!
2010.11.24 22:19 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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