聖夜

Posted by 松長良樹 on 30.2010 8 comments 0 trackback
X’mas短編競作企画参加作品  

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 ――雪の降りしきる夜だった。一人の少女が雪の積もった石畳の路を歩いていた。
 しっとりとした栗毛に利発そうで大きな瞳、襟元には赤いマフラーを巻いていた。息は白い靄(もや)になって冷たい空気の中を漂う……。

 彼女が足早に外灯のある街角に差し掛かると、路肩に得体のしれない塊があるのに気づいた。好奇心でいっぱいな瞳が輝いたが、それがもそもそと動いたとき、不安そうに立ち止まって後ずさりした。
 でも眼を凝らして見ると、それが人だとわかった。大きな毛布のような外套をすっぽりと頭から被り、図体の大きな人間がその場に蹲っている。
 外套はぼろぼろで薄汚れていて、尚よく見れば髭を蓄えた老人である。驚いて少女は唇に両手をあてがったまま言った。
「まあ、おじいさん。こんな寒い場所で……。いったいどうしたの?」
 老人は閉じていた瞼を微かに開いて少女を見つめた。
「ああ、ちょっと疲れたんでここに座ったらつい、うとうとしてしまって」
「こんな寒い場所で寝たら、おじいさん凍死してしまうわよ」
「……」
 老人の眼は青く澄みきっていて綺麗だった。
「君は、名をなんていうの?」
 老人がしわがれた声で言った。
「あたしの名はアンドリア。とにかくここにいちゃいけない。お家はどこなの?」
「わしの身を心配してくれるのかい? 君はやさしい子だ」
「いいから、おじいさん立って」
「だって君は道を急いでたんじゃないのかい?」
「寝ていてどうしてそんな事がわかるの」
「実はずっと君を見ていたんだ。薄目を開けて」
「うそよ、そんなの……」
 ちょっと不思議そうに少女の瞳が光った。そして老人の頬に赤みがさしたのを見て少し安心して溜息をついた。小さな可愛い溜息だ。
「君の事なら知ってるよ。アンドリア。君は今、街でプレゼントを買ったんだね」
「……」
「君の可愛い弟のロナルドの為にさ」
「な、なんで知ってるのそんな事」
 少女は紙袋を小脇に隠した。
「去年、君のお父さんはまだ若くしてあの世に召された。だから君は十歳もとしの離れた弟の為にプレゼントを買ったんだ」
「……」
 少女がたじろいで老人を凝視した。瞳が潤んでいた。
「君のお父さんはサンタのふりをして君達に毎年プレゼントをくれた。もっとも君はそれを知っていて黙ってお父さんに感謝していた。でも今年はサンタはいない。だから君がサンタにならなくちゃいけない、ロナルドの為に。そう思ったんだろアンドリア、違うかい?」
 少女は下を向いて黙っていたが、急に目を輝かせた。
「おじいさん。ほんとは神様なのね。そうでしょ、でなきゃそんな事が判るわけがない。まさか…… 悪魔じゃないわよね」
「はっはっはっ、ほっほっほほほっ」
 老人が不意に笑い出した。
「おじいさん、誰なの?」
「名はニコラウスじゃよ」
「ニコラウス? まさか、セント・ニコラウス」
「そのとおり。わしはサンタクロース」
「まさかー、そんな」
 少女はまるで嬉しそうにその場で一回転した。
「サンタがなんで、そんな汚い服を着ているものですか」
「そうかな」
 彼はそういうとその粗末な外套を脱ぎ捨てて、すっくとそこに立ち上がった。
 赤と白のあの定番の衣装が少女の眼に眩しく映った。
「な、なんてことなの奇跡なの、それともあたしの頭がおかしいの?」
「アンドリア、わしは君のような人を探していたんだよ」
「……探していた」
「そうじゃ、わしはもう何世紀もこの仕事をして、かなり疲れたんじゃ。だからクリスマスの一日だけ、わしを手伝ってくれる子を探していたんじゃ」
「まあ」
「でも誰でもというわけにもいかん。誠実で優しい心を持つものでないといかんのじゃ。アンドリア、君は合格じゃ」
「サンタさんの助手の募集ってわけ?」
「まあ、ただ強制はせんから、少しでも……」
「いいわよ。サンタさん。あたしでよかったら手伝ってあげる」

「おーい!」
 彼が夜空に叫ぶとトナカイの引く銀の橇がその場に現れた。
「わー! 凄い。夢じゃなかったのね! さあ、いきましょう」
「まず、君の家に行かなきゃならんな」
「やっほー!!」
 少女の眼は凛として輝き、ゆるぎない気持ちに満ちていた。そしてサンタの眼は限りなく青く澄みきっていた……。

                  おしまい。

 この話はヴァッキーノさんにお誘いをいただいてつくりました。アイテムや登場人物が使えなかったのをお詫び申し上げます。
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こういうステキなお話がなくてはいけません(きっぱり)
だってクリスマスですもん。
ありがとうございます。汚れきった僕の心のよごれを、高圧洗浄機パワージェットのようにプシューッと洗い流してくれました。

実は実は昨年、ヴァッキーノさんはサンタが遭難して雪の中に倒れている場面を書きました。フィンランディアが流れる荘厳なヤツ。奇遇ですねぇ!
2010.11.30 23:42 | URL | 矢菱虎犇 #Io9ablOQ [edit]
初めまして、競作の方からやってまいりました。
すごい綺麗な話ですね、読んでいるうちに情景が目に
浮かんでくるようです!
聖夜にサンタクロースの助手、に選ばれた弟のためにサンタになる少女。
信じつつも、サンタ役をする少女を選んだサンタの真意、何かあると思うんですよね…。
2010.12.01 18:04 | URL | hiro1468 #TJdQLek. [edit]
この設定がなんとも鮮やかですね。
街角の寒い冬って感じがパーっと浮かんできます。
そして、なによりもこの少女の無邪気さ!
一回転しちゃうんですから(笑)
世界名作劇場です。
ハートフルだなあ。
2010.12.01 19:17 | URL | ヴァッキーノ #- [edit]
矢菱虎犇さん。感想ありがとうございました。
そういっていただけて嬉しいです。
 ところで、ヴァッキーノさんはサンタが遭難して雪の中に倒れている場面を書きました。とあったので驚きです。ほんとに奇遇ですねぇ!
2010.12.01 21:43 | URL | 松長良樹 #- [edit]
> 初めまして。hiroさん。コメントありがとうございました。
色んな想像してくれてありがたいです。ブログ見に行きまーす!
2010.12.01 21:45 | URL | 松長良樹 #- [edit]
ヴァッキーノさん。お読みいただきありがとうございます。
この子は実は村上 佳菜子なんです。なんつって。
2010.12.01 21:50 | URL | 松長良樹 #- [edit]
私も競作に参加しています。
このお話いいですね。
聖夜っていうタイトルがピッタリです。
心優しい女の子の「やっほー」のセリフがいいですね。
可愛いなあ。
またお邪魔しますね^^
2010.12.01 23:53 | URL | りんさん #- [edit]
りんさん。コメントありがとうございます。

ちょっと甘い話ですが読んでいただけて嬉しいです!

ブログに行きまーす!!
2010.12.02 19:41 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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