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結論

Posted by 松長良樹 on 03.2010 2 comments 0 trackback
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「みなさん、地球と称する銀河系の外れの星ご存知です?」
 ヤカンのような頭をした宇宙人がそう言った。褐色の天体に巨大なドームがあり、複数の宇宙人が大きな円卓を囲んでいる。
 今ここに宇宙評議会が召集されたのだ。大きいのやら小さいのやら、青いのやら赤いのやら、個性豊かな宇宙人たちが真剣な面持ちで集まっていた。
「地球? ですか、宇宙環境大臣……。 ああ、あの随分と辺鄙な場所にある惑星の事ですか」
 どんぐり眼球の宇宙議員が答えた。
「ああ、その星の事で今日は皆さんに集まってもらいました」
「環境大臣、いや今日は議長でした…。ええ、たしかその星では人間とか言う哺乳類が異常に増殖しているのでしょう」
「はい、良くご存知で。そこに住む人間という種がこの頃数が急速に増えてまして、このままで行くと深刻な食料危機を迎えつつあるのです……。いやもう迎えている」
「増え過ぎなんですか?」
「まあ」
「で、それは死なんのですか」
「死んではいます。老化や病気、事故や自殺で大量に死んでいます。しかし生まれる方が多いんです。地球の人間という生物の人口は、彼らの時間の単位で1分間に約150人、1日で22万人、1年で8千万人増えています。つまり1年に6千万人が亡くなり、1億4千万人が産まれます」
「ほう、かなり深刻ですね」
「はい。かなりどころではありません」
「で、彼らは火を使うのですか?」
「はい。彼らには文明があります。物を加工し、つくります」
「となると、益々深刻じゃないですか」
「彼らは物をつくるのに火を焚き、ガスを大量に空気中に排出します」
「随分とまあ原始的ですねえ。オゾン層がえらい事になりそうですね」
「現になっています。彼らは温暖化とかいっていますがそれで年々緑が減り、彼らの言う環境破壊が進んでおります」
 どんぐり目が少しだけ憂いを含んだような眼差しで宇宙を見上げた。
「それで今後の見通しはどうなのですか?」
「絶望的ですね。それに彼らは戦争しています」
「緊急時に戦争ですか?」
「そうです。世界中で小競り合いが絶えません」
「若い連中は?」
「自分中心でただ遊んでいます。無関心とか、関係ねえとかそんな態度です。社会情勢には無頓着ときている。真に将来を憂うものは極僅かです」
「困ったな」
「このままだと滅亡も時間の問題かと……」
「うーん。どうします? 皆さんの意見を聞かせてください。彼らを救いますか?」
 議長がそう言うと宇宙人たちがかなり険しい顔色になり、沈痛な空気がその場を支配してしまっていた。

 その時まるでヨーダのような顔をした宇宙人が立ち上がり初めて発言した。
「彼らには干渉してはなりませんぞ」
 皆が彼に注目した。
「これは生物アカデミーのムーク博士、なぜでしょう? ご意見を…」
「はい。では意見を述べさせていただきます。環境破壊と言いますけれど、私に言わせればそれは破壊ではありません。単なる環境の変化ですね。環境破壊という言葉は人間という種の自己中心的な考え方です。元々地球に酸素などなかったのです。いや失礼、ありましたが極めて少なかった。海中の植物が陸に上がり爆発的に繁殖して光合成をし、酸素を大量に作った。だから酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す生物が増えたんです。見ようによっては、植物が環境破壊をしたともいえる。それに人間は人工物ではない。自然の摂理によって作り出されたもの。つまり人間も一つの自然。だからそれが自然を破壊したとしても、自然にそうなったという事で、彼らの言う環境破壊はあくまで人間の目線での破壊でしかありません。したがってそれは変化であり、変動なのです」
「では、どうしろと」
「そのままにしておきましょう。なすがままに任せようではありませんか」
「……しかし、彼らは私達に似た、いわゆる高等生物ですよ。見殺しにするのですか?」
「……」
「このままだとオゾン層は破壊され、海水の温度は上昇し、陸地も海に沈むでしょう」
「かもしれません。しかしそれは次のステップです」
「次の…」
「我々とて、何度も絶滅の危機に瀕したではありませんか…。そして生き延びた者のみが今こうしてここに居る」
「……」
 宇宙人達は何か言いたげだったが、結局顔を見合わせたり、困った顔をするだけで誰一人発言する者はなかった。

 やがて閉会になったがなぜか議長は席を立たず、ぼんやりとドームの向こうを見上げて長い溜め息をついていた。
 そこに退席したはずのムーク博士が近づいてきて声をかけた。
「これはびっくりです。あなたの感傷的な顔を私は始めて見ました」
 ちょっと驚いて議長が振り返った。
「これはどうもムーク博士、お恥ずかしいところをお目にかけまして」
「地球が気になるのですか、あの小さな岩石惑星が…」
「はい。実は今から地球時間で百五十年ぐらい前、私は一年以上も研究の為にあの惑星で暮らしていたんですよ」
「これは、これは、それは知りませんでした。驚きました……」
「彼らは野蛮ですが、心根は決して悪くありません。根は善良で素直なのです」
「彼らに手を貸したかったのですか」
「え、ええ、まあ」
「心配いりませんよ」
「しかし、彼らはもう」
「正直、もうすぐ天変地異が彼らを襲うかも知れません。大いなる変動に彼らは殆ど死に絶えるのかも知れません。しかし、全てではない…」
ムーク博士はそう言うと黙って議長の肩に手を掛け目を閉じた。
「実は私は彼らを信じているんですよ。ええ、そうですとも、頑なまでに彼らを信じているのですよ。だからこそ、なにもしない」
 はっと思い立ったような表情を議長が浮かべた。
「……」
「彼らの中の誰かがそう遠くない将来にこの評議会に出席すると私は思っている。彼らは次のステップを新しい世界に向けて踏み出すのです」
「ムーク博士……」
 ムーク博士が得も言われぬ笑みを浮かべた。つられて議長も穏やかな微笑を浮かべた。
 ――二人の視線の彼方に銀河があり、眩いばかりの艶やかな光輝をドームいっぱいに映し出していた……。

      *  *

 毎日自分に言い聞かせなさい。今日が人生最後の日だと。
 あるとは期待していなかった時間が驚きとして訪れるでしょう。
         ホラティウス 古代ローマの詩人


                            おしまい。

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まったく同感ですね。
人間中心のものの考え方ってのが、うんざりしちゃいます。
世界が終わるって言いますけど、それは人間の種が終わるってだけで、地球がなくなるわけじゃないんですよね。
そんなことを考えさせられました。
               月の上にて
                    ヴァッキーノより
2010.12.05 18:16 | URL | ヴァッキーノ #UXr/yv2Y [edit]
ヴァッキーノさんコメントありがとう。

我々は決して特別の存在ではない。
宇宙の構成要素でしかないのかもしれません。
2010.12.06 21:05 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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