現象

Posted by 松長良樹 on 04.2010 2 comments 0 trackback
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 ――世界が発狂しそうな暑い日だった。
 熱帯の太陽がそのまま都会に引っ越してきたような真夏だ。
 ぼさぼさ頭に無精ひげの男が血相変えて派出所に駆け込んできた。息を切らし、その瞳はまるで魔物でもみたように怯えている。
「大変だ! えらいものを見ちまった!!」
 男はかすれた声で大仰にそう叫んだ。
「まあ、落ち着きない」
 警官は目で訝(いぶか)りながらも、取りあえず男に椅子を与えた。
「どうしたんですか。そんなに慌てて事故ですか、事件ですか?」
 一呼吸おいて男が話し始める。
「そこで私は見てはいけないものを、見てしまったんです!」
「だから、なにを見たんです」
 警官が僅かに眉をしかめた。
「そこの交差点で、この近所の交差点です」
「交差点でなにがあったんです……」
「人と車がぶつかったんです」
「交通事故ですか?」
「それが、そうじゃないんです。人も車も無傷だったんです」
「なんですか、それは?」
「交通事故なんていう、生易しい事じゃないんです!」
 男はそういうと派出所の黒板から右手でチョークを取った。
「これが人だとしましょう」
 今度は黒板消しを左手に取って
「これが車だとして」
 男はそう言って、チョークと黒板消しを交差させて見せた。するとチョークがスーッと、黒板消しを貫通してしまった。
「ほら! 見ましたか。夢じゃないんだ!」
「なんだ、そんなことか……」
 警官がこの世のものとは思えない異様な笑みを浮かべた。
 そして机の上のペンを床に落としてみせた。
 
 ――跳ね返るはずのペンは床にスーッと吸い込まれた。


                  おしまい。

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場面の描写が、スルドイですね。
比喩がステキです。
その場面を想像しようとすればするほど
なんか変な気分になってくるという
不思議な文章体験でした。
2010.12.06 21:23 | URL | ヴァッキーノ #UXr/yv2Y [edit]
ヴァッキーノさんありがとうございます!

不気味さが狙いのお話でした。
2010.12.07 20:16 | URL | 松長良樹 #- [edit]


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