スナイパー

Posted by 松長良樹 on 09.2010 0 comments 0 trackback
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 高層ビルの屋上からターゲットに照準を合わせた俺は、何のためらいも感じないまま銃の引き金を引こうとしていた。
 暗殺者は常に冷徹でなければならない。己の私情など微塵たりとも交えてはならないし、俺自身が鋼鉄の精密機器にならなければならないのだ。
 俺の頬にひんやりとした狙撃銃の感触が心地よい。銃はスナイパーウェポンシステムの流れをくむ高精度オートマチック。スコープを覗き込む俺の眼はきっと鋭い鷹のような光を放っているのだろう。
 ターゲットはマフィアの大ボスのゴンドーだ。法で裁けない犯罪組織の首領である。こいつがかたずけば、けちな世の中もちょっとはましになるんじゃないのか。
 おっと、俺にはそんな事は関係ない。正義を気取る気なんぞ、これっぽっちもないのだ。これは完全なビジネスであり、多額の報酬さえ手に入るのなら、俺は天使だって打ち殺してみせる。
 スコープの中にターゲットを正確にとらえた俺は全くの無表情のまま引き金を引いた。銃身の鈍い振動が俺の米噛みに伝わってきた。
 と、次の瞬間、俺は我が目を疑った。ターゲットが身を竦めたのだ。何とも信じられなかった。ターゲットは俺が引き金を引いたと同時のタイミングで床にこけたのだ。弾丸はわずか数ミリ奴を逸れ、その向こうにいた別の男の心臓を射抜いてしまったのだ。
 しくじったのだ。俺はあまりのショックに銃を放り出し、呆然と屋上に立ちすくんだ。
 この俺が、今までただの一度もターゲットを外さなかったこの俺が失敗したのだ。
 一発で仕留めなければならない。銃を乱射して相手を仕留めるなど俺のプライドが金輪際、許さないのだ。

 数日後、俺は依頼主のところにすっかり気落ちして訪れた。
 俺はクライアントに潔くあやまり、この仕事を引退する事を決めていた。

 ドアを開けると俺がまだ一言もしゃべらないうちに相手はこう言った。
「君は凄いよ、まったく驚いた。さすがだよ。私は最初君がしくじったのかと思ったよ。しかし君は奴が暗殺を事前に察知して替え玉をつくり、全く別の男に変装していたのを見破っていたんだね。君こそプロ中のプロだ」

 ――最後に付け加えよう。暗殺者は幸運に恵まれなければならない。
 俺はニヒルな苦笑いを浮かべ、ゆっくり顎を撫でた……。

                    おしまい。

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