青い瞳のエミーナ 2

Posted by 松長良樹 on 22.2010 0 comments 0 trackback
 この世では無いような、一種異様な雰囲気が薄汚れた駅のトイレを支配していた。
 娘は何度か瞬きをした。長い睫毛が上下する。 その瞳を覗きこんで高林は息をのんだ。実に不思議な美しい水色の眼をしていたのだ。娘の顔つきはどう見ても東洋人なのだが眼の色が水色なのだ。
 神秘的であった。娘は顔にあどけない幼女のような微笑を湛えていた。
 それでいて男を魅了する艶のようなものを、身体のうちから発散していた。
 身長は165センチ前後だろう。
 年齢の推測はおよそつけ難かった。十代にも二十代にも高林には見えた。高林は着ていた薄いグレーのコートを脱いでその女の背後から着せた。袖は通さず肩から覆う格好だ。
「いったいどうしたのですか。こんな冬の夜中に裸なんて…… きっと酷い眼にあったんでしょうね。警察に行きましょう」
「警察? それなんですか」
 まったく間の抜けた質問だった。高林は一瞬この娘がふざけているのかとも思ったが、その一途な視線は高林に向けられており、冗談の出る雰囲気ではなかった。
 その時だった。不意に娘の眼が閉じられて意識を喪失したように足元が揺らいだ。高林が肩を抱きかかえる。そのまま駅長室に向かうはずだったが、酒のせいもあったのか高林は思いも及ばぬ行動に出た。
 本人さえなぜそうしたのか判らなかった。そのまま娘をいかにも介抱するような格好で、駅を出て自宅に向かったのである。その娘の格別の美しさに惹かれてそうしたのか。彼女のいない寂しさがそうさせたのか。はっきりとはわからない。その時の高林は正気ではなかった。
 閑散とした道を歩き、曲がりくねった斜面を登る。
 高林のアパートは丘の中腹にあった。深夜のせいもあって誰にも気付かれない。ドアを開けコートのままベッドに娘を寝かした。
 汗ばんでいたのでそのままシャワーを浴びる。眼を閉じて髪を洗ううち、やっぱりこれは夢かなと思った。酷い酒を飲んだものだと思った。有り得ない話じゃないか。きっと風呂場から出ればそんな娘はいない。
 そこにあるのは砂のような味気ない現実だけじゃないか。しかし。と高林は思った。
 もし本当だとしたら、俺はなんて罪な事をしたんだ。頭のおかしな娘を自宅に連れ込むなんて犯罪じゃないか。
 なんで駅員か警察に知らせない。高林の頭の中で後悔と不安が駆け巡った。
「ご主人様」
 声がした。天使のようにやさしく。いたわるような心地良い声だ。その声を聞いただけで癒されたような気分になる。
「ああ、待って今行くよ」
 ほとんど無意識に高林はそう答えた……。

                                つづく
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