青い瞳のエミーナ 3

Posted by 松長良樹 on 23.2010 0 comments 0 trackback
 薄暗い部屋に娘のシルエットがあった。娘がそこに立っていて、コートが床に落ちていた。娘が高林を見つめていた。小悪魔のように男を誘う目だった。
 夢ではなかったんだと高林は思った。娘の口角が微妙に上がって微笑んでいる。
「いったいご主人様って言うのはどういう意味だい?」
 高林が困った顔で言った。
「私のご主人様……」
 娘が繰り返した。可愛い艶のある声だ。唇が開いて紅色の舌が覗いた。
「よしてくれ、俺は君の主人じゃないよ」
 高林が頭をかいた。視線をはずそうとする。
「あたしを見てください。あたし綺麗ですか」
 高林のはずした視線が娘の身体に戻された。白く悩ましい肢体が眼の前にある。ピンク色の乳首がツンと上を向いていた。
 白い首に細い黒い革のチョーカーが悩ましかった。赤いルビーが前に付いている。密着するほど娘が肢体を近付け、両腕を高林にからめて熱い吐息をつく。
 娘の匂いがした。それは馨しいほど良いかおりだった。
 男性自身を起立させないではおかない雌の匂いだ。むらむらとした。いかん、やばいぞと思った。
 一瞬両手が彼女を抱きそうになったが、高林はなんとか堪えて柱を拳で殴った。
 思い切り殴ったわけではないが拳に痛みが走った。
「何をしようとしてるんだ君は、だめだ。男の前でそんなに簡単に裸を見せないでくれ」
 高林はそう言って床に落ちたコートを拾い上げて娘の前を隠した。
「あたし寂しい」
 ストレートな言葉だった。これでもかという娘の誘いだった。娘はコートをつかんでベッドの上に投げ捨てた。
 娘の膝が高林の股間に割って入った。腰をくねらせている。指先が彼の胸を淫らに這い回った。ついに高林の理性の止め金がに外れた。
 男の本能が表出して娘を思い切り抱きしめた。ベッドに押し倒し、貪るようにキスをした。全身をくまなく愛撫する。舌と唾液が絡み合った。
 高橋の腕の中で娘の瞳が淫靡な光を放った。
 娘の恍惚な表情は堪らないほど高林を刺激した。娘は何度も絶頂を迎えた。それを待っていたかのようであった。
 実に甘味な身体であった。長時間の濃厚なセックスが終わると高林は著しく体力を消耗していた。うつろな目をして天井を見つめていた。
 傍らで娘がやすらかな寝顔を見せていた。細い腕を高林の腹に絡ませている。
 俺はなにをしたという思いが込み上げてきた。それは麻薬患者の陶酔が醒めて現実に引き戻されたような感覚だった。夢の中を優雅に飛ぶ蝶が途端に網をかぶされ、正常と常識とに桎梏され、身動きも出来ない感覚だ。味気なく切ない心持ちだ。
 どうしようと思った。頭のおかしな娘と関係を持ってしまった。許されるものだろうか。しかし誘ったのは娘だぞと思った。合意の上だと開き直った。
 ――二人はそのまま眠った。深い眠りだった。

 翌朝目覚めると軽い頭痛がした。思考に霧が掛かったように頭の中がぼんやりとしている。冷蔵庫を開けて冷えたジュースを一気に胃袋に流し込む。
 すると娘の寝顔が高林の視界に飛び込んできた。やはり夢ではない。
 その時高林の中に、ある覚悟が生まれた。覚悟というより開き直りに近かった。
 高林は思った。――この娘と一緒にいる。この娘がここに居たくないと言うまで。俺はこの娘と同棲する。誰かが探しに来るのかもしれない。病院から連絡があるのかも知れない。しかしその時はその時だ。高林は急にその娘が愛おしくなった。愛するとまでは行かないが…。
 高林は腹をくくっていた。その眼が気のせいか異様に輝いて見えた……。


                            つづく
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