青い瞳のエミーナ 9

Posted by 松長良樹 on 30.2010 0 comments 0 trackback
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 高林が仕方なく腰をあげた。その店は海辺に張り出すように建てられていた。
 一階からの螺旋階段は海辺の国道に続いていた。高林が先頭でエミーナとサングラスの男が後から降りた。狭い階段は横に大人二人がやっとだった。
 サングラスの男はスーツのポケットに銃を忍ばせていた。無言で高林が階段を下る。
 高林はジャケットの内ポケットの中でしきりに指を動かしていた。友人に緊急メールを送ろうとするが手探りではメールも満足に送れなかった。
 国道に冷たい風が吹き付けていた。高林の唇が白く血の気が失せていた。やるせない眼つきで高林が海面の彼方を見つめていた。
「さあ、これで君とはお別れだ。後を追わないでくださいよ」
 サングラスの男が言った。
「――これでお別れ」
 呟くように高林が言って、黒のロングドレスの上にブルーのショールを巻いたエミーナを見やった。哀し気な表情だ。男はまるで以前からのカップルのようにエミーナの肩に手を掛けた。
 何事も無かったかのようにエミーナと腕を組んで行こうとする。その後姿に高林が声をかけた。
「ちょっと待ってくださいよ、あなたはいったい誰なんですか? どう見たってこの娘の家族じゃなさそうだ」
「――私達に関わるな。いいですか最後の忠告ですよ」
 振り向いた男は冷酷な口調だった。
「この娘をどうする気ですか」
 どぎまぎした様子で高林がそう訊いた。
「ははあ、あなたはこの娘の身体が忘れられないんでしょう」
「そうですとも。忘れられない」
 サングラスの男が薄気味の悪い微笑をつくった。
「あなたはまるで子供ですね。おとなしく立ち去るんです。銃を使う事になります」
 その時、男の内ポケットで携帯電話がけたたましく鳴った。急いで携帯を取って男がしばらく話し始めた。
「良治……」
 エミーナが言った。
「あたし怖いの。この人と行きたくない」
 高林の顔に驚きが表れ、やがて嬉しそうな眼をした。エミーナは完全に意思がある事を確認できたような気がした。
「行かせないよ。エミーナ。行くなら僕も一緒だ」
 男が携帯を閉じてポケットにしまい込んだ。
「良かった。あなたはこの娘と一緒にいられそうですよ」
「どういうことですか?」
「状況が変わったのです。あなたも連れて行く事になった」
 男が抑揚の無い声で言った。
「連れて行くって何処へ……。お願いだから解放してください」
 サングラスの男はなにも答えなかった。無言になった。しばらく重苦しい沈黙が続いていた。男は何かを待つようであった。
 国道に黒い車が現れた。こちらに近づくにつれ車が濃紺のジャガーだとわかった。車が三人の横に停車して運転席のガラス窓が下がった。運転席の男もサングラスをしていた。
「乗れ」
 低い声だった。顔を後ろに向けるジェスチャーをした。高林の顔が硬直していた。
 得体の知れない恐怖が高林を包み込んでいた。
 拒む事など出来そうにもなかった……。

                             つづく
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